2017/04/20(木)山口重克の遺言フルテキスト

御書院番衆水野隼人正組として、大坂夏の陣で戦死した山口重克の長大な遺言書をデータ化。陣中の武士が持ち込んだ現金の話や、武家屋敷の様子が窺える。

甲子夜話 巻四十三「山口小平次消息」

去年か、林氏より古き消息とて示されしを、書櫃に寘て、再び見出したれば録す。

この文は、山口侯[常州牛久一万余石]の祖の弟、山口小平次と云るが、大阪勤番の間その妻に贈れる所と見ゆ。此人神祖の御時にして、文中に於て当時の風俗知るべきこと多し。又小平次の為人も見つべし。小系并時記書末に附す。

いんきよ様へひにゝゝ人をまいらせ、いかやうにも、御きにさはり候はぬやうに、ぶさた申すまじく候。さかなをもとゝのへ候て、しん上申すべし。いは山よりちやまいり候はゞ、いつものほどしん上申べし。のこるぶんは、はさみはこふたのうへにて、てをあらい、こまかにくだき候て、つぼにつめ、くちをはりをくべく候。そこもとにても、そろゝゝと、つかい申べし。一、よきびんぎに、ちやをひかせ、はこにつめ候て、こすべし。一、こどもそくさいにて候や。もしゝゝ、いもはしかなどいたし候はゞ、そうとくえなどへ、談合候て、おもてへいだしみせ申候て、よくゝゝやうじゃう申べし。一、おかめに人をひとりづつつけてをくべし。さかなをいつものごとく調させ、くはせ可申候。かりそめにもなかせ申まじく候。ねんをいれ、よくゝゝそだて申べし。一、よるひをともし申まじく候。よひからふし申べし。一、ひのもとやうじん、きづかい申べし。さうべつよろづゝゝきづかい申べし。ゆだん申まじく候。一、おごせへも、びんぎ候はゞ、さいゝゝ文をもまいらせ、かみのうちをもたつしべし。一、小ひやうは、月はんぶんづゝと申候へども、人もなく候はゞ、しかとつめてくれ候はれ候へと申し候て、つめさせ申べし。ねんごろにあいしらい、ちやをもたてゝやり候やうに、申べし。一、六だゆふどのかたのと、にしのかたのと、あけ申まじく候。おすへのくち、たてゝばかりをくべくし。かりそめにも、をんなをおもてへいだすまじく候。一、物ごとものぐさく、したにばかりゐ候ては、かげの事みへぬものにて候。すこしの事にもたちまはり、いかにもりこうにはからい申べし。一、さくらだより、さいゝゝびんぎあるべく候。きゝ候て文をこすべし。一、つぎ候て、ひとへにずきん一つぬい候てこさるべし。こぞのずきんは、ちいさく候。それよりちとひろくながくぬい候てよく候。あせのごいも、かみばこのうちにあるべし。こさるべし。一、そこもとのふるききる物、よろづかび候はぬやうに、ときはなし、さいゝゝほさせ候て、よろづてをきゆだん申すまじく候。こものどもきる物なども、あらはせ候てをくるべく候。一、どこにか、きんちやくに、ぜに五十文あるべく候。そこもとにてつかい申さるべし。一、物をかき、たしかなるわかとう候はゞ、一人も二人もおき候て、じん十どのをたのみて、はんとり候て、のぼせ申べし。こものもたしかなるもの候はゞ、二人もをかせ候て、こさるべし。一、しほやふとうなつねんぐ、きつく申候て、六月ぎりにとりきり候て、びんぎにのぼせ申さるべし。いかにもきつく申候はでは、すまし申まじく候。たひょうへかたへ申をき、きつく申させ候べし。一、此ほうめしつかい候ものども、みなゝゝ何事なく候。そのよし申きかせらるべし。一、なが屋のひのもと、よくさいゝゝ申しつけらるべし。一、ねこをめのまへにをかせ候て、よくめしみづをかはせ申さるべし。一、そこもとのやうす、くはしく一つがきにしてこさるべし。一、ゑのたね、をそく候とも、ふとうへこし候て、ちやうゑもんにまかせ候■■てこさるべし。一、うちそとのはたに、なをまかせ申さるべし。一、おもてのうへきに、ばんゝゝみづをうち候へと、たひやうへかたへ申さるべし。一、いんきよ様へのらくかのくちゞゝ、いつもぢやうをおろしをき候へと申さるべし。一、こども、二日に一どづゝ、ゆをあびせ、八日十日にいちどづゝかみをあらい、日にゝゝかみをゆい申さるべし。きたなきあそびさせ申すまじく候。以上。四月卅日

一、われらあひはて候はゞ、いんきよ様の事、われら娘とひとつに御ざ候はんとおほせ候はゞ、すこしもぶさたなく、むすめのなり候やうに、いたし候べし。御うへさまとひとつにとおほせ候はゞ、そのぶんにさせ申べし。ともかくも御ためによく、御すき次第にいたし候べし。一、ふたりのむすめ事、としたけ、よめいりごろになり候とも、いかなるよきものにてか■とも、まちにんのかたへ、なかゝゝやり申すまじく候。ほうこうにんも、かせぎのけしぢかなるすまゐなどのかたへ、なかゝゝやり申すまじく候。一、たれにてもたのみ、ひととめのてはんをとりて、おはりかいせかへのぼせ、おくふかきびくにでらのびくにになし候べし。さなくばいつこうぼうずのめごになし候べし。いつこうぼうずのゑんにつけ候はゞ、くはなに、いとうびぢやうどのと申人、みののかみどのゝうちしゆに御入候。この人をたのみ、にあはしきてらへこし候べし。びくにか、いつこうぼうずのかたへか、ふたいろがひといろに、かならずいたし候べし。さやうになく候はゞ、ふかくそのほうをうらみ申すべし。一、ふたりのむすめいとけなく候まゝ、たいぎながら、そもじもおはりまでつれてのぼり、みとゞけて給べし。みちすがらふじゆふにあるべく候まゝ、ごんへもんどのをみちのうちたのみ候て、つれだち申すし。次らすけもみちのうちつれ申べし。そのゝちはぬしかんにんしだいたるべし。一、よめ事はいとまをとらせ申べし。まんとさくは、とりにげにあひ候はぬやうに、よるひるきづかい候てめしつれ候べし。ふたりのむすめにとらせ候。一、そのほうの事、にあはしきかたへゑんにつき申べし。ふたりのこどものためにて候まゝ、かならずかならず、むりにもゑんにつき、そのたよりにて、こどもをはごくみ申すべし。おとこのしんしやうにもかまいなく、おとこにこゝろのたのもしきをゑらみ候て、ゑんにつき申べし。一、そこもとに御入候、こめ、きる物のたぐい、どうぐども、みなゝゝ、ふたりのむすめにとらせ候。二つにわけてふたりへわたし申べし。どうぐどもは、やすくもみなゝゝうり候て、かねにいたし候べし。一、むらさきのよるの物、むらさきぶとん、かめやじまのこそで、かね三れう、まきへのすゞりばこ、おかめに取らせ候。一、しろきよるの物、をりむしろ、あたらしきそめこそで、かね二れう、おいしにとらせ候。一、ふるきよるの物、きる物ども、かね一れう、十人まへのべんとう、そのほう■候べし。われゝゝがね、とりあつめ十七両あまり、しろがねもあるべく候へども、ぢんばへもたせ候は、さだめて、をちちり候てあるまじく候まゝ、かきしるし申さず候。まづゝゝ、此ふみにそへ候ばかりかきたてて、かへもんにねんごろに申しつけ候まゝ、このほうのかねもとゞき候はゞ、ふたつにわけてむすめにわたし申べし。このほうのきる物、よろづどうぐも、二つにわけわたし申べし。一、いんきよ様へ、あふぎのこそで、しん上申べし。一、かねをひと手にとて、すこしもかし申まじく候。ひそかにあきないなどは、させ申すべし。一、われらゐ候はぬとて、ふたりのむすめきたなくかいどうかけまはらせ、いやしのこどもをつれにしてあそばせ申すまじく候。おくふかくきれいにそだて、八つ九つにもなり候はゞ、てならいをさせ申すべし。いづかたにゐ申候とも、まちなみにゐ申まじく候。ひとのうらやしきなど、かたわきをかり候てゐ申べし。一、ぶちの馬、天野さう右衛門どのをたのみ、うり候て、かねにいたし可申候。一、われらのために、てらへぜにを、一もんやり申まじく候。しゆつけを、たのみ申まじく候。みづむけもいらず候。しに候ひをいとい候事も、むやうにて候。くれぐれ、われら申しおき候ごとくにいたし候べし。われらしに候ひをかきつけ、はしらにをしおき候て、そのひには、むすめにゆをもひかせ、かみをゆい、つめきらせ、きる物のほころびをもぬい、てならいをもさせ、ちへをつけて、これをわれゝゝへのたむけにいたし申さるべし。くれゞゝみづむけせうじんなど申候事いらず候。一、むすめ人がましくそだて候事ならず候て、はしぢかくあさましきなりにて候はゞ、ふたりながら、うみへしづめ申べし。うきめをみせ候事、なかゝゝいやにて候。一、ちいさきしづのかたな、たじま様へ進上申すべく候。そのほかかたなわきざし、ゆみやりてつぽう、なにもかも、みなゝゝうり候て、むすめにとらせ申べし。一、たじま様より、御あづけ候どうぐどもは、みなゝゝ、たひやうかたへ、かへし申べし。一、ふとうのあねごへ、ふるきかめやじまのこそでまいらせ申べし。一、こども、かみがたへのぼり候はゞ、かへもんをたのみともにつれ申べし。のぼりくだりのろせんほど、こめをわたし申べし。いそがはしく候まゝ、くはしくは、かゝず候。よきやうに、よろづおはからい候べし。以上。卯四月廿七日 小平次(花押)

断簡

一、いんきよ様御ちやのまのうらぐちより、よそのものうちをみいれ申べく候まゝ、ことはりをいはせ候てみせ申すまじく候。一、かまやにて、あふかたのときひをたくまじく候。いんきよ様の御ようとて候はゞ、きづかいなく、たかせ申べし。一、たやべやのまへより、うらへいでゝくちあけ候はゞ、そのまゝふをつけ申べし。一、せつちんつかへ候はゞ、しほやのひやくせうまいり候ときとらせ申べし。一、つみわた、びんぎにこすし。さくらだよりびんぎあるべし。一、あめかぜふき、すさまじきよは、ながやのおんなども呼び候てねかせ申べし。いんきよ様へも、ひとりこし申べし。一、ひのようじん、ぬす人ようじん、よそのものうちへいれ候はぬ事、つかいおんなどもにふだんきづかい、とのあけたて、此ぶんきづかい申べし。一、ねんぐの事、ちぎやうゝゝへ、きつく申こすべし。よろづりこうにこゝろがけべし。一、たしかなるわかとう、こせう候はゞ、をかせ候て人も二人もこすべし。こものも一人もこすべし。二ねんもかんにん申候。一、七つすぎてよりひをたくまじく候事。一、ともしびむやうにて候。あかきより、ふし申べく候事。一、だいどころのあいのと、つねゞゝたてゝをくべし。かりそめにもあき候はゞ、よくゝゝあらため申べし。一、くらのくち、あけたてかんやうにて候。だいどころよりくらへのくち、人をつけをきてあけさせ申べし。そのくちあき候はゞ、おくみへ申べし。きづかい申べし。一、くらせばく候はゞ、ねのよきころこめをうらせ申べし。たゞし、ごんへや九らへに、だんこう申べし。一、九らへをぶさたに申まじく候。二らすけにもこのよし申べし。一、よるはひやうしぎうたせ申べし。一、あいこ、おふちやくをいたし候はゞ、せつかん申べし。せつかん申候ても、きゝ申さず候はゞ、 [この以下脱失、不全]

本書の末に記す。此文四月晦日と有候は、大阪御和睦後、伏見御城在勤致候砌の文か。委舗訳相知れ不申候。後の卯四月廿七日と有之は、夏御陣打死以前、妻方へ差越候文と存られ候。年久しき故、訳相分りかね申候。

系図

廿六代重政 竹丸、長次郎、半兵衛尉、但馬守従五位下、当時周防守家也。重克 亀千代、小平次、天正八年庚辰六月二十五日酉刻生。永原重政異母弟。自若年奉仕台徳院殿。元和元年乙卯五月、大阪再乱、御小性組水野隼人正忠清組。五月七日到天王寺辺、先進打死。于時三十六歳。当時山口周防守家頼山口十右衛門家なり。

天祥公の『武功雑記』に載す。大坂にて御旗本打死衆二十三人。大名には、小笠原兵部大輔、同信濃守、本多出雲守。御書院番衆水野隼人正組、松平助十郎、山崎助四郎、松平庄九郎、山口小平次、簗田平七、同子平十郎。同断青山伯耆守組、古田左近、松倉蔵人、別所主水、大島左近大夫、野一色頼母、服部三十郎。大番衆高木主水組、米倉小伝次、大岡忠四郎、林藤四郎、間宮庄九郎、筒井甚之助。此外安藤彦四郎[帯刀嫡子]、御使番安藤次右衛門、三十郎兄坂部作十郎。この中所見その人なり。